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ベルファスト暴動 [英国生活・文化]

 北アイルランド・ベルファストで10日の日曜日に始まった暴動がまだ収まる気配がない。
 発端は大英帝国併合派のオレンジ党(ロイヤリスト)のパレードを警察が迂回させ、カソリック住民のエリアを通らないよう要請したこと。過去にもこのオレンジ・パレードは暴動の発端になっており、警察の判断は至極妥当である。本来権力側の警察は、かつては逆にロイヤリストを守ってカソリック居住区を行進させてあげたことから逆に暴動を起こしてしまった過去がある。
 北アイルランド紛争の歴史は以下に詳しい。U2の曲であまりにも有名な"Bloody Sunday"についての説明も。1972年1月30日、第2の都市デリーで市民権を求めるカソリック系住民のデモに大英帝国軍が殺害目的に無差別発砲、死者14人を出したおおよそ法治国家とは思えない事件だ。血は血を洗う争いに発展し、IRAによる報復テロの恐怖にイングランド国民はおびえ、プロテスタント側の報復的暴力は住民を巻き込み…そういった状況はつい先日まで続いていたのだ。
http://hanran.tripod.com/irish/record/history.html

 D.は近代史が大好きなだけでサヨクでもウヨクでもないのでどちらに肩入れと言うことはないが、簡単にいえばプロテスタント=イングランド帰属派=旧支配層=裕福=ならず者をカネで雇うこともでき軍隊の介入も大歓迎派と、カソリック=アイルランド共和国帰属派=被支配者層=労働者の争いであり、単純に見ればどちらを応援したくなるかは明らかである。但し、友人のアイルランド共和国人に言わせれば北アイルランドのカソリック教徒はややネガティブな考えを持ちすぎるように思う、と(あくまで個人的意見)述べていた。また、IRA本体はマルクス主義を掲げていたこと、テロを起こしていた分隊は国粋主義的で第2次大戦中にナチスと親密な関連があったこと、などから住民の純粋な感情とそれらの内紛が完全に直結していると考えるのも誤りである。逆に最近和平のプロセスに参加したシン・フェイン党のジェリー・アダムスについては「何もできないヒト、IRA過激派に対する影響力なんてありはしない」と前述の友人は酷評している…
 保守党のサッチャー首相は強硬姿勢を貫いたため、党大会開催中のブライトンのホテルで彼女が爆殺されかけた事件(1984年、議員4名が死亡)は有名。その後のメージャー政権のあと、労働党に政権が移ってからやっと逆回しだったオルゴールが元に少しずつ戻り始める。元は下院のかわいこちゃん、後に肝っ玉おばちゃんことMo Mowlamの登場によって。

 下院議員で若かりし頃にブレア首相と水泳大会に興じている映像(笑)はよく流される。北アイルランド出身、ブレア就任時からの北アイルランド担当大臣。行動を旨とし、刑務所の中まで行ってテロリストと対話するなどの大胆な行動、飾らない人柄で両派からの信任を得る。そしてついには全ての陣営を和平のテーブルに着かせる…日本ではあまりに知られていないが、北アイルランド和平はブレアの功績ではない。全て、一人の女性政治家の力である。ある意味、サッチャーより偉大である。
 しかしそのプロセスが始まる頃ブレアは彼女を更迭する。参考文献によればブレアに「干された」とあるが、まあそういうところなんだろう。ヤツはどこかの阿呆石油亡者のケツを舐めるのも得意なようだし。しかしそれより以前、入閣したころから、彼女は悪性の脳腫瘍に冒されていたのだ。抗癌剤の影響で髪は抜け、体重は増え、一時はカツラを使っていたがしまいにはそれも脱ぎ捨て(和平会談の席上での出来事らしい)、堂々と病に立ち向かいながら激務を続けたのである。女性にとってこれほど辛いことはなかったに違いない。そしてきっと彼女の体力も限界だったのだろう。2001年に国会議員も引退。その後和平プロセスは逆戻りしないまでも幾度も暗礁に乗り上げ、プロテスタント強硬派政党は未だに主導権を独占することしか頭にない様子ではあるが…(最近の暴動は民主的投票プロセスを認めたくない彼ら主導のものが殆どのようだ)

 2005年7月28日、IRAは一方的に武装闘争の終結を宣言(これが全ての分派にまで及ぶものかどうかはまったく疑わしいが、一つの時代の終わりを意味するものではあるだろう)。それを見届けたかのように、あるいは停滞するプロセスが無念だったかもしれないが、彼女は8月19日早朝、ホスピスで静かに息を引き取った。まだ55歳の若さだった。

 彼女の死は(危篤の報から)BBCや国内各局で速報、特別番組として報じられ、英国・アイルランドの新聞も(そして米国の新聞のいくつかも)全て1面で報じられた。ついでに1979年から1983年までNewcastle大学で客員教授をしていたことがあるため、ニュースメールでも回ってきた。
 以前、大好きな作家で政治家(スキャンダルやら詐欺やら偽証やらで失脚・逮捕・投獄を繰り返し国民にはもはやネタにされているが)Jeffrey Archerの小説「めざせダウニング街10番地」(原題:"First Among Equals")で北アイルランド問題に立ち向かう議員の姿を読んで以来興味があったが(そしてもちろんアイルランドそのものが大好きなので)、まさか実際に、それも女性の政治家でそういった人物が現れることを彼は予想していただろうか。彼女の功績についてはもう少し時間が経ってみないとわからないが、いつか北アイルランドに本当の平和が訪れた時にはもっと大きく世界的にも評価され、日本でも知られるようになるだろう。そしてその日は遠くないことを信じる。彼らの憎しみの深さはもちろんそう簡単なものではなく、ここ数日のような暴動は、まだこの先も散発するかもしれないが…。

Special THANX to:
 アイルランドの歴史
 THE BRADY PUNCH


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コメント 2

SHIN

気持ちが理解できないので、ただの危険にしか思えないなぁ。
痛いことをする意味って、現代において価値があるのだろうか。
社会的に、経済的に、政治的に、もっと痛いことがあって、
もう充分痛めつけあっていて、なお、畜生の喧嘩みたいに
肉体そのものへの攻撃をあきらめないなんて、愚かだわ。

イギリス、4つに分裂して、アイルランドだけEUに入る、とか
面白いとおもうけどぉ~♪
スコットランドもついてくるな。タブン。
イングランドは・・・・・??
ウエールズは鎖国するね、きっと。
あはははははは
by SHIN (2005-09-16 06:51) 

KDN

SHIN師匠、どうもです。(新しいメールアドレス教えて頂けますか?メールマガジン送りたいので)

暴力でしか対話できない連中がまだまだ多いということですね。
要するに子供のケンカと一緒。
宗教の名を借りるのも、親の名を借りて威張るガキとおなじ。
体制が変化するだけで(それが平和的な方向であっても)自分の既得権益が守られないのではないかと不安になって暴れる。要するに自分に自信がないのでしょうね。
率直に言って、この国の労働者階級の粗暴さと、中流外れ者の落ちこぼれぶりは日本にいると想像もつかないところがあります。もちろん同様のトラブルは日本にもありますがね。

スコットランドとウェールズについては僕もそう思っていましたが、経済的な依存性や彼の国の貧しさも目にすると、精神論にとどまらざるを得ないように思いますね。
でも北アイルランドだけは、それこそ祖国分断の悲劇だと思います。って、行き来はパスポートチェックもなく、飛行機も含めて全くの国内線扱いなんですけど。
もうちょっと勉強してまた書きます。
by KDN (2005-09-16 17:43) 

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